症状あれこれ ―発熱―


筆者紹介  加藤哲太

東京薬科大学 薬学部 教授
薬学教育推進センター

所属委員会等
・日本学校保健会・医薬品の使い方に関する指導方法検討委員会・委員
・セルフメディケーション推進協議会 理事
・東京都薬剤師会 学校保健委員会 委員

岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業 薬学博士。薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用防止、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。
主著:『新・体と健康シリーズ 知っておきたい「くすりの正しい使い方」自分の健康は自分で守ろう』『知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ -基礎知識と正しい使い方-」』など
出演番組:日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK Eテレ「オトナへのトビラTV」など


※このコーナーは、受診勧奨すべき症状を判断できるスキルを磨くためのものです。診断行為にならないように注意するとともに、判断に迷ったら医師の診断を仰ぐようお伝えしましょう。

自然な防御反応だけに判断が難しい

今回は発熱を取りあげます。発熱も頭痛と同様にその原因を見極めるのが難しい症状の一つです。発熱といっても、ウイルス性の感染症などを原因とする全身性のもの以外に、打ち身・ねんざ・骨折など、局所の患部が熱をもつものもありますが、今回は、前者(全身性の発熱)に絞って取りあげます。

発熱のメカニズム

かぜなどの感染症にかかると発熱しますが、これはウイルスなどの外敵を排除するために体に備わった自然なはたらきで、そのメカニズムは以下のようになっています。

  1. ウイルスなどの外敵が侵入すると、「マクロファージ」や好中球などの免疫細胞が迎え撃つが、こうした免疫応答の一環として発熱物質(パイロジェン)としてはたらくインターロイキン(IL-1)などが放出される。
  2. サイトカイン類が脳に達するとプロスタグランジンが産生され、これが視床下部の体温調節中枢(温熱中枢)に作用する。
  3. 増加したプロスタグランジンが体温のセットポイントを上げることで、身体の各部に熱を産生するよう指令が出される(体温が上昇しているときには、発汗は抑えられる)。

このようにして体温を上げるのは、高温で増殖しにくいウイルスなどが増えるのを抑制したり、白血球の活動を活発にしたりするのが目的です。発熱への医薬品による対処というと、熱を下げる解熱鎮痛薬(かぜなら総合感冒薬など)を使う、というのが真っ先に思い浮かびますが、本来、発熱は自然に備わった防御反応であり、通常の発熱であれば熱を下げないほうが良いとされます。ただし、高体温状態が続くことで体力が消耗したり、過剰な体温上昇があった場合には、医薬品によって下げる必要があります。
なお、高熱が続いたり、OTC医薬品で対応できない病気が疑われる場合は、医療機関で適切な処置を受けるようアドバイスすることが重要です。

発熱への対処に関して覚えておきたいこと

医薬品による対処では、発熱を抑えるためにNSAIDsなどの解熱鎮痛成分を使用します。同成分は、先の「発熱のメカニズム」の2番目にあたる「プロスタグランジンが産生される」のを抑えるはたらきがあります。プロスタグランジンは、細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼA2の作用によってアラキドン酸がつくられ、ここにシクロオキシゲナーゼ(COX)が作用することで産生されます。解熱鎮痛成分は、シクロオキシゲナーゼの作用を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制し、体温上昇を抑えますが、それによる弊害も薬剤師としてはきちんと理解しておきましょう。

まず、プロスタグランジンには、胃粘膜保護、胃液分泌抑制のはたらきがあるため、解熱鎮痛成分を使用した際は、胃障害が起こりやすいことはよく知られています。またプロスタグランジンに変わる前のアラキドン酸は、リポキシゲナーゼのはたらきによりロイコトリエンへと変化しますが、このロイコトリエンはアナフィラキシーや気管支収縮に関与する作用もあります。つまり、NSAIDsでプロスタグランジンの産生が抑制されると、ロイコトリエンの産生が優位になるため、気管支喘息の発作を引き起こすのです。これがいわゆる「アスピリン喘息」です。さらにプロスタグランジンには細かい血管の拡張を維持する作用もあるため、プロスタグランジンの産生抑制によって腎障害や、胎児の動脈管を収縮させるおそれもあります。こうしたことから、NSAIDs配合の医薬品では喘息や腎障害に関する注意が添付文書に記載され、さらにアスピリンとイブプロフェン製剤の禁忌として「出産予定日12週以内の妊婦」が記載されているのです。このように、体のはたらきはさまざまな作用の微妙なバランスによって成り立っています。そのため、同じ成分が主作用と副作用の両方を引き起こすことがあるという事実を理解しておくことは、非常に重要であるといえます。
なお、胎児の動脈管収縮についての詳細は、以前、成分から学ぶ「使用上の注意」で取りあげていますので、そちらもご覧ください。

こんな症状なら、お医者さんに相談!

このほか、高熱を伴うもので、医師の診察を受けるべき疾患が疑われる症状をあげておきます。こうした症状のお客様がいらっしゃった際は、対応に十分注意してください。

・咳や痰、のどの痛みなどの呼吸器症状のほか、関節痛などの全身の痛み。
 ⇒インフルエンザの疑い
・腹痛、吐き気、嘔吐、下痢などの症状が現れる。
 ⇒サルモネラなどの細菌性の食中毒の疑い
・高熱とともに激しい頭痛や意識障害、けいれん、めまいなどを伴う。
 ⇒髄膜炎や脳炎などの疑い
・主に右上腹部が痛む
 ⇒A型急性肝炎や肝膿瘍、胆石症や胆嚢炎など、肝臓・胆嚢の病気の疑い
・主に右下腹部痛が痛む
 ⇒急性虫垂炎などの疑い
・女性で、下腹部が痛み、吐き気や嘔吐などがある
 ⇒子宮付属器炎などの婦人科疾患も考慮する
・全身倦怠感やふらつき感、息切れ、鼻出血、生理出血などが起こりやすく、止まりにくい。
 ⇒白血病の疑いも

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。掲載日:2014年07月31日