湿疹・皮膚炎と皮膚用薬2


筆者紹介  加藤哲太

東京薬科大学 薬学部 教授
薬学教育推進センター

所属委員会等
・日本学校保健会・医薬品の使い方に関する指導方法検討委員会・委員
・セルフメディケーション推進協議会 理事
・東京都薬剤師会 学校保健委員会 委員

岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業 薬学博士。薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用防止、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。
主著:『新・体と健康シリーズ 知っておきたい「くすりの正しい使い方」自分の健康は自分で守ろう』『知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ -基礎知識と正しい使い方-」』など
出演番組:日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK Eテレ「オトナへのトビラTV」など


※このコーナーは、受診勧奨すべき症状を判断できるスキルを磨くためのものです。診断行為にならないように注意するとともに、判断に迷ったら医師の診断を仰ぐようお伝えしましょう。

前回は皮膚炎の症状とそれらが起こるメカニズムについて確認しました。皮膚用薬にはさまざまな種類がありますが、今回は皮膚用薬の中でも、効果的な使い方をぜひ覚えておきたいステロイド外用剤について詳しく見ていきたいと思います。誤解を受けやすい成分ですが、正しく使えば安全性は高く、効果の高い優れた成分だということをお客様にも理解していただけるようにしましょう。

効果的なステロイド外用剤の使い方とは?

ステロイド外用剤について

ステロイドとは?
まず、そもそも「ステロイド」とは何なのかについて確認しておきましょう。ステロイド外用剤の主成分であるステロイド成分とは、本来人間の体内で作られる「副腎皮質ホルモン」を化学的に合成したものです。副腎皮質ホルモンは、腎臓の上にある副腎という器官の皮質部分で作られるホルモンの一種で、生命維持に必要な各種のはたらきをもっています。とくに、強力な抗炎症作用、免疫抑制作用、抗アレルギー作用などを治療に利用するために、用途に合わせて分子構造に装飾を加え、抗炎症作用を強化したり、作用時間を長くしたりといった開発がされてきました。ステロイド外用剤は、このようなステロイド成分を使用した皮膚用薬です。

ステロイド外用剤の誤解
ステロイド外用剤はシャープな効き目をもつ優れた薬ですが、多量に使用したり漫然と使用したりするなど、使い方を間違えると副作用が起こることがあるため、「危険な薬」「副作用が多い薬」という誤解もよく聞きます。そのため、「ステロイドは使いたくない」と考えているお客様も少なからずいることは否定できません。
ステロイド剤は、副腎機能の抑制や骨粗しょう症、糖尿病、高血圧の発症といった副作用が問題になることがありますが、これらは内服薬や注射剤によるもので、通常の使い方である限り、外用剤ではまず起こりません。問題がある例としては、ステロイド外用剤を長期に渡って化粧の下地や髭剃り後などで連用する「誤用」によって、「皮膚が薄くなる」「血管が浮き出て見える」などの副作用が報告されたことはありますが、広範囲に連用しない限り全身性の副作用はほとんどないといえます。
このように、ステロイド剤は投与経路によって起こりうる副作用が異なること、そして外用剤は内服薬に比べると重篤な副作用が少ない薬であるということを理解しておいてください。

メカニズム (なぜ効くのか?)
ステロイド成分は、細胞内のステロイド受容体に結合し、ステロイド受容体複合体を形成します。これが、酵素などの各種たんぱく質の産生を促進したり、抑制したりするようにはたらきます。その結果、免疫抑制作用、抗炎症作用、血管収縮作用、細胞増殖抑制作用などを示すのです。以下で、免疫抑制作用と抗炎症作用について取りあげておきましたので、確認しておいてください。

・免疫抑制作用
ステロイド成分は、免疫細胞である白血球の一種「リンパ球」の活性を抑えるといった免疫抑制作用がある。

・抗炎症作用
炎症の発生や悪化には、プロスタグランジンやロイコトリエンなどの生理活性物質が関係しており、こうした炎症物質の産生をステロイド成分が抑えることで抗炎症作用を示す。

ステロイド外用剤を使う意義
炎症を抑えるはたらきは、抗ヒスタミン成分や非ステロイド性抗炎症成分(NSAIDs)にもありますが、ステロイド外用剤を使用する意義とは何でしょうか? その理由は、成分のはたらきの違いにあります。NSAIDsは、炎症が起こる過程の一部に作用するだけですが、ステロイド成分は、プロスタグランジンなどの産生を抑えるだけでなく、免疫反応から炎症の惹起、悪化に至るまで、炎症の全課程に作用します。そのため、ステロイド成分のほうが炎症を鎮める強い作用を示すのです。炎症が強く、早く症状を鎮める必要があるときなどに有効といえます。

ランクと「ストロングファースト」について
日本では、医療用ステロイド外用剤の作用の強さは、強いほうからストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、マイルド、ウィークの5段階のランクに分類されており、OTC医薬品では、ストロング、マイルド、ウィークランクに該当する外用剤が市販されています。
病院などの医療現場では、接触皮膚炎や虫さされなど急性の炎症性皮膚疾患には、はじめに充分な効き目が期待できるランクのステロイド外用剤を使用し、症状の改善とともに使用回数を減らしたり、あるいはランクの低いものに切り替えたりする「ステップダウン療法」が主流となっています。OTC医薬品を使用するセルフメディケーションにおいても、このステップダウン療法をもとに、はじめに充分な効き目のランクである、「ストロング」を使う「ストロングファースト」が基本と考えられます。「傷痕を残さない」「症状を長引かせない」ためにも、症状が強めの場合は、この「ストロングファースト」の考えをもとに、お客様に商品を提案していきましょう。
なお、子どもにはマイルドランク、赤ちゃんにはウィークランクをファーストチョイスすることをおすすめします。

使用にあたって注意すべき事項について
使用上の注意点としては、ステロイド成分に免疫力を低下させる作用があることから、水虫や水ぼうそうといった感染性の皮膚炎には使用できないことがあげられます。また、アトピー性皮膚炎は長期の投薬コントロールが必要ですので受診勧奨しましょう。皮膚炎は、医師でも判断が難しい症状のひとつです。炎症が強い、原因が不明など、判断がつかない場合は、まずは皮膚科を受診するようにお伝えしましょう。

なお、アトピー性皮膚炎については、日本皮膚科学会が「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」を出しています。診断にかかわる内容なのであくまでも参考としてですが、受診勧奨のための判断材料として、眼を通しておくといいでしょう。

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」(日本皮膚科学会)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913553_1.pdf

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。掲載日:2015年09月29日