湿疹・皮膚炎と皮膚用薬1


筆者紹介  加藤哲太

東京薬科大学 薬学部 教授
薬学教育推進センター

所属委員会等
・日本学校保健会・医薬品の使い方に関する指導方法検討委員会・委員
・セルフメディケーション推進協議会 理事
・東京都薬剤師会 学校保健委員会 委員

岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業 薬学博士。薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用防止、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。
主著:『新・体と健康シリーズ 知っておきたい「くすりの正しい使い方」自分の健康は自分で守ろう』『知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ -基礎知識と正しい使い方-」』など
出演番組:日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK Eテレ「オトナへのトビラTV」など


※このコーナーは、受診勧奨すべき症状を判断できるスキルを磨くためのものです。診断行為にならないように注意するとともに、判断に迷ったら医師の診断を仰ぐようお伝えしましょう。

湿疹・皮膚炎と皮膚用薬1

今回と次回は、皮膚のかゆみや炎症を抑えるために使われる皮膚用薬をとりあげます。
皮膚用薬は、外用剤であることから内服薬に比べると比較的安全なイメージはありますが、そうは言っても、医薬品である限り、正しい使い方をしなければさまざまな問題が起こる可能性は否定できません。また、副作用を防ぐことはもちろんですが、それを必要以上に恐れて不充分な使い方をすると、症状を悪化させてしまったり、長引いたりといった弊害も起こりかねません。ただでさえ皮膚炎は判断が難しい症状でもありますから、適切な受診勧奨のためにも、正しい対処法を身に付けておきましょう。

皮膚のはたらきと皮膚炎

皮膚は表面から深部に向かって「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層に分かれています。表皮の最も深い部分である「基底層」では、常に細胞分裂によって新しい細胞が生まれています。この細胞は次第に表面に押し上げられ、最終的に角質細胞に変化して一番外側の「角質層」を形成し、体の内部を外部刺激から守るはたらきをしています。
角質層を覆っているのが、汗と皮脂が混ざった天然のクリームである皮脂膜で、この皮脂膜と角質層により、皮膚が乾燥から守られ、適度な水分を保つことができます。また、この構造は、外界からの細菌や異物が体内に侵入するのを防ぐ役割ももっています。これが「皮膚のバリア機能」と呼ばれるものです。しかし、皮脂膜が減少したり、新陳代謝が乱れて角質の状態が乱れたりすると、このバリア機能が低下し、肌が外部からの刺激を受けやすくなってしまいます。

皮膚のバリア機能低下によって刺激を受けやすくなると、日光、ある種の化学物質やアレルゲン(アレルギー誘発成分)などの刺激に対して、元になる有害な因子を排除し、再生・修復しようとして「皮膚の炎症」が起こることがあります。これが「皮膚炎」です。皮膚炎はひっかくなどの物理的刺激でも起こります。
皮膚の組織は有害な刺激を受けると、原因を排除するために肥満細胞からヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンといった化学伝達物質を放出します。ヒスタミンは主にかゆみを発生させ、血管を拡張することで「発赤」や「発熱」が起こります。また、ロイコトリエンは血管透過性を亢進するので、血管から血漿成分が漏れ出し、皮膚がふくらんでブツブツと腫れる「湿疹」を引き起こします。さらに、プロスタグランジンも血管拡張や痛み(疼痛)の増強など、炎症を増強するようにはたらきます。これら「発赤」「発熱」「腫脹」「疼痛」は、炎症の4兆候と呼ばれています。
こうした皮膚炎は、刺激となる物質や部位などの違いによって以下のようにさまざまな症状となって現れます。

かぶれ(接触皮膚炎)

かぶれは、正しくは接触皮膚炎といわれます。何らかの物質に触れることで起こる皮膚炎で、アレルギー性のものと非アレルギー性のものがあります。前者は「アレルギー性接触皮膚炎」と呼ばれ、ウルシなどの植物によるかぶれや、クロムやニッケルなどのアクセサリーによって起こる金属アレルギーなどが代表的です。アレルギーによる症状ですから、改善のためにはその原因を突き止め、原因物質を皮膚から排除することが重要です。
一方、非アレルギー性のものは「刺激性接触皮膚炎」と呼ばれ、漂白剤や強力洗剤、除光液など、毒性の強い物質に触れた場合に発症します。主婦湿疹や、おむつの中の排泄物によって起こる「おむつ皮膚炎」もこれにあたります。アレルギー性の症状と違い、誰にでも起こる可能性があります。

主婦湿疹

いわゆる「主婦湿疹」と呼ばれる手指の湿疹は、その名のとおり、水仕事の多い主婦がなりやすい湿疹です。洗い物などで洗剤や水によって手指の皮脂が洗い流され、バリア機能が低下したところにさらに洗剤などの刺激を受けることで炎症が起きやすくなります。初めのうちは指が赤くなったり小さな湿疹ができる程度ですが、悪化すると皮がむけてただれたりすることもあるため、水仕事の際には手袋をしたり、ハンドクリームでこまめに保護・保湿をするなどのケアが大切です。

虫さされ

虫さされは、カやハチなどの害虫に刺されることで起こります。害虫の毒が皮膚に注入されたために患部が炎症を起こしたもので、腫れやかゆみ、痛みといった症状が強い場合は、消炎効果が高いステロイド外用剤が効果的です。虫さされは、かき壊してしまうと痕が残ったり、治るのが遅くなったりしますので、カのように毒性が低いものであっても、かゆみが強いものは、患部を掻き壊す前にかゆみを鎮めることが大切です。がまんできず掻き壊してしまった場合は、殺菌・消毒成分を配合した皮膚用薬でケアするといいでしょう。

脂漏性湿疹・あせも

脂漏性湿疹は、頭部や顔面、わきの下、股など、分泌される皮脂量が多い部位で起こります。こうした場所では、分泌された皮脂が酸化して刺激の強い脂質過酸化物ができ、これが皮膚を刺激するのが原因と考えられています。
またあせもは、全身に分布するエクリン汗腺が汚れやアカなどでふさがれ、皮膚の下に汗が溜まることが原因とされています。
予防のためには、どちらも分泌物を適度に拭いて皮膚表面を清潔にしておくことが大切です。

症状と対応成分

こうした皮膚炎による症状は大きく分けると、痛みや腫れなどの「炎症」、ヒスタミンのはたらきによる「かゆみ」、掻き壊しなどによる「傷」のほか、症状を悪化させる「乾燥」などがあります。そこで、それぞれ以下のような成分で対応します。

炎症

炎症を鎮めるには抗炎症成分を使用します。抗炎症成分は大きく分けて、ステロイド性抗炎症成分と非ステロイド性抗炎症成分があり、一般にステロイド性の成分のほうが炎症を抑える効果は高めです。ただし、長期連用しない、感染性の症状には使えないなど、注意すべき点があります。また、先にも述べたようにヒスタミンによる血管拡張作用も炎症の亢進にはたらくため、抗ヒスタミン成分にも炎症を鎮めるはたらきが期待できます。
なお、ステロイド性抗炎症成分については、そのはたらきや効果的な使い方、注意点など薬剤師としてぜひ知っておきたい内容がありますので、次回詳しく取りあげることとします。

・ステロイド性抗炎症成分:プレドニゾロン、フルオシノロンアセトニドなど
・非ステロイド性抗炎症成分:グリチルレチン酸、ウフェナマートなど
・抗ヒスタミン成分:ジフェンヒドラミン塩酸塩など

かゆみ

かゆみは、肥満細胞が放出したヒスタミンが受容体に結合することで生じます。そこで、こうした症状には、ヒスタミンが受容体に結合するのをブロックする抗ヒスタミン成分を配合した外用薬を使用します。また、知覚神経を麻痺させる局所麻酔成分や、かゆみを感じにくくする鎮痒成分、局所刺激成分なども使われます。

・抗ヒスタミン成分:ジフェンヒドラミン塩酸塩など
・局所麻酔成分:リドカイン、ジブカインなど
・鎮痒成分:クロタミトン
・冷感局所刺激成分:カンフル、メントールなど

掻き壊しなどで傷になってしまった場合は、患部が化膿しないように殺菌消毒成分や抗生物質が配合された外用薬を使います。また、アラントインなどの組織を修復する成分も使われます。なお、ステロイド性抗炎症成分は免疫力を低下させる作用があるため、外用ステロイドを配合した皮膚用薬は、化膿した患部には使えません。その場合は、抗生物質のラジオマイシン硫酸塩を配合した「フルコートf」(弊社品)のような皮膚用薬を使用することをおすすめします。

・殺菌消毒成分:イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジングルコン酸塩など
・抗生物質:ゲンタマイシン、フラジオマイシン硫酸塩など
・組織修復成分:アラントインなど

乾燥

皮膚が乾燥してしまうと、皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に敏感になってしまいます。また、皮膚の修復作用も低下します。そのため、角質層の水分保持力を高めたり、皮膚表面を保護するなどして水分蒸発を防ぐ成分が使われます。

・角質層の水分保持力を高める:ヘパリン類似物質など
・皮膚の表面を保護する:グリセリン、ワセリンなど

OTCの皮膚用薬で対処できない場合とは?

皮膚炎は症状の判断が難しい疾患ですから、ケアの際も慎重に判断する必要があります。では、OTCの皮膚用薬で対処できないのは、どのようなときでしょうか?
以下に代表的なものを取りあげていますのでチェックしておいてください。

・症状が重度の場合
・症状が長期化した場合(5~6日薬を使用しても改善しない場合)
・OTC医薬品では改善しない、悪化した場合
・疾患部位の範囲が広い場合(手のひら2枚以上)
・患部が粘膜や生殖器などの場合
・著しい発熱や倦怠感を伴う場合
・アトピー性皮膚炎が疑われる場合
・激しい痛みや、全身に広がるかゆみを伴う場合
・薬剤を使用したことによって発症したと疑われる場合

これらは、OTC医薬品で対応できない病気である可能性や、医薬品による副作用の可能性を示唆しています。そのため、このようなご相談を受けたときは、OTC医薬品の使用をいったん中止して、すぐに病院を受診するようにおすすめしましょう。

次回は、ステロイド成分の作用メカニズムや使う際の注意点などについて詳しくとりあげる予定です。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。掲載日:2015年07月24日