せき


筆者紹介  加藤哲太

東京薬科大学 薬学部 教授
薬学教育推進センター

所属委員会等
・日本学校保健会・医薬品の使い方に関する指導方法検討委員会・委員
・セルフメディケーション推進協議会 理事
・東京都薬剤師会 学校保健委員会 委員

岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業 薬学博士。薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用防止、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。
主著:『新・体と健康シリーズ 知っておきたい「くすりの正しい使い方」自分の健康は自分で守ろう』『知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ -基礎知識と正しい使い方-」』など
出演番組:日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK Eテレ「オトナへのトビラTV」など


※このコーナーは、受診勧奨すべき症状を判断できるスキルを磨くためのものです。診断行為にならないように注意するとともに、判断に迷ったら医師の診断を仰ぐようお伝えしましょう。

悪化を避けるため、詳細を把握しておこう

せきも、先に紹介したくしゃみなどと同様、注意したい症状のひとつです。店頭でもよく相談される症状のため、正しい知識を身につけておきましょう。せきは、長期にわずらったり、ときには重篤な症状になったりすることがあるにも関わらず、日常的に経験することから軽視されがちです。さらに、薬の副作用で起こることがあるという認識も生活者には希薄のため、専門家である薬剤師が注意を促したり、危険を察知したりする必要があります。そのためにも、さらに深い知識を身につけるよう心がけてください。それらの知識があることで、副作用を避けられ、万一悪化しても早くケアでき、深刻な事態を避けることができるのです。

せきとは?

せきは、のどや気管に入った異物を排出するために起こる反射です。
気道にホコリやウイルスなどの異物が入ると、気道を刺激され、その刺激が脳のせき中枢に伝えられてせきが出ます。そのため、かぜなどをひいて炎症が起きると、気道が敏感になって吸い込む空気の温度差によってもせきが出ることがあります。また、ウイルスなどの異物を絡め取った「たん」も、気道を刺激してせきを誘発する原因となります。

乾いたせきと湿ったせき

このようなせきは、大きく分けると次のように「乾いたせき」と「湿ったせき」の2つがあります。この違いによって、基本的な対処も変わってきますので、確認しておきましょう。

乾いたせき
「コンコン」という乾いたせきは、炎症によって過敏になった気道が冷たい空気なども刺激と感じることで起こります。たんを伴わないことが多く、その場合はせきをしても排出すべきものがない、いわゆる「空せき」となりますので、そのままでは体力を奪われたり、気道粘膜がさらに傷ついたりしてしまったりします。これを防ぐため、乾いたせきの場合は、まずせき中枢を鎮める鎮咳成分などを使ってせきを止めるのが、基本的な対処となります。

湿ったせき
せきをしたとき「ゴホゴホ」いうような湿ったせきは、主に気道にたんなどが絡んで、そのたんが刺激となっているために起こります。たんは、ウイルスやホコリなどの異物を粘液で絡め取ったものなので、気道外に排出する必要があります。この場合のせきは、たんの排出を助けるために起こるものですから、乾いたせきとは異なり、止めないほうが良いとされます。そこで、たんを排出しやすくなるL-カルボシステインなどの去たん成分を配合した医薬品を用います。
なお、せきの原因には、ほかにも以下のようなものが考えられます。

せきの原因
・感染性(ウイルス、細菌、カビ、マイコプラズマ、クラミジアなど)
・アレルギー性(ハウスダスト、カビ、ダニ、化学物質、黄砂、スギなどの花粉など)
・医薬品の副作用(非ステロイド性抗炎症薬による喘息、間質性肺炎など)
・刺激性(化学物質、塵埃など)
・その他病気によるもの(肺がん、COPD、中皮腫、肺線維症など)

せきを鎮めるには?

せきを鎮めるための医薬品には、次のようなはたらきをもつ成分が配合されています。詳しく見ていきましょう。

医薬品に配合される成分とはたらき
・せき中枢にはたらきかける → 鎮咳成分
・気道を広げる → 気管支拡張成分
※かぜ薬などに配合される解熱鎮痛成分による「アスピリンぜんそく」が原因の場合もあるので、こうした副作用によるものであれば、服薬をやめる必要がある。
詳しくは、以前取りあげた「発熱」のページを参照。

・たんを取り除く → 去たん成分
・アレルギー刺激によるせきを抑える → 抗ヒスタミン成分
・気道の炎症を鎮める → ステロイド性抗炎症成分(医療用吸入剤)

主な成分

鎮咳成分:せき中枢にはたらきかけて、過敏になった気道への刺激によるせきを鎮める。乾いたせきに。
麻薬性鎮咳成分:コデインリン酸塩水和物、ジヒドロコデインリン酸塩など
非麻薬性鎮咳成分:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ノスカピン、チペピジンヒべンズ酸塩など
生薬:キョウニンなど

気管支拡張成分:気道を広げて呼吸を楽にすることでせきを鎮める。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩、メチルエフェドリン塩酸塩、トリメトキノール塩酸塩、メトキシフェナミン塩酸塩、など

去たん成分:たんを取り除き、粘膜を整えることで刺激を排除してせきを鎮める。湿ったせきに。
ブロムヘキシン塩酸塩、L-カルボシステイン、グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウムなど
生薬:オウヒ、セネガ、カンゾウなど

抗ヒスタミン成分:アレルギーによる刺激を排除してせきを鎮める。
ジフェンヒドラミン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩など

ステロイド性抗炎症成分:気道の炎症を抑えて、せきを鎮める。吸入など。(医療用)
ブデソニド、フルチカゾンプロピオン酸エステルなど

注意したい症状・副作用など(受診勧奨すべき症状など)

なお、せき止め薬に含まれる成分には、麻薬性のコデイン類など、副作用に注意すべき成分があります。さらに、OTC医薬品では対応できない症状、医薬品による副作用で現れるせきなどの注意したい点もありますので、以下のような症状や、判断が難しい場合は、受診勧奨するようにしましょう。たかがせきなどと見くびっていると危険な場合もありますので、十分注意してください。
とくに「せきぜんそく」のように、「かぜが長引いているだけ」と思って放っておくと、慢性化して本格的なぜんそくなってしまうこともありますから、重篤にならないようにアドバイスできるようにしておきましょう。

服用に際して注意したい成分
コデイン類:依存性、便秘、眠気など。
メチルエフェドリン塩酸塩:高血圧や糖尿病、心臓疾患などの持病がある方は注意が必要。

その他注意したい症状
ぜんそく
気管支などの空気の通り道(=気道)が、炎症によって狭くなる病気です。慢性化すると、ちょっとした刺激で気道が狭くなって息苦しくなったりするほか、重篤の場合は窒息のおそれもあります。「息苦しくて眠れない」といったときは発作が起きている可能性がありますので、早めに受診するようにお伝えしましょう。

間質性肺炎
肺胞やその周りの毛細血管を支持している組織(間質)に炎症を起こすものを総称して間質性肺炎と呼びます。呼吸困難(息切れ)や乾いたせきが主な症状です。肺炎は細菌感染によるものが一般的ですが、間質性肺炎の原因は、医薬品の副作用など多岐にわたるため、特定が難しいといえます。

慢性閉塞肺疾患(COPD)
たばこの煙などの有害な物質が長期にわたって肺を刺激すると、細い気管支に炎症を起こし(細気管支炎)、せきやたんが多くなります。その結果、気管支の内側が狭くなって肺の空気がうまく吐き出せなくなり、酸素不足になって息切れを起こすのがこの病気です。

せきぜんそく
慢性的にせきが続く気管支の病気です。かぜに併発して起こることが多く、かぜ薬やせき止めを飲んでも、たんを伴わない空ぜきが続きます。そのまま放置すると約3割が気管支ぜんそくに移行するといわれるため、悪化する前に病院で診てもらうことが重要です。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。掲載日:2015年05月29日