鼻炎2(鼻水、鼻づまり)


筆者紹介  加藤哲太

東京薬科大学 薬学部 教授
薬学教育推進センター

所属委員会等
・日本学校保健会・医薬品の使い方に関する指導方法検討委員会・委員
・セルフメディケーション推進協議会 理事
・東京都薬剤師会 学校保健委員会 委員

岐阜県生まれ。岐阜薬科大学卒業 薬学博士。薬の正しい使い方やたばこの害、薬物乱用防止、アンチドーピングに関する講義、体験実習などを通じて、青少年の薬教育の拡大を目指す。
主著:『新・体と健康シリーズ 知っておきたい「くすりの正しい使い方」自分の健康は自分で守ろう』『知の森絵本「なるほど!くすりの原料としくみ -基礎知識と正しい使い方-」』など
出演番組:日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK Eテレ「オトナへのトビラTV」など


※このコーナーは、受診勧奨すべき症状を判断できるスキルを磨くためのものです。診断行為にならないように注意するとともに、判断に迷ったら医師の診断を仰ぐようお伝えしましょう。

添付文書の記載事項の意味を考えよう

前回に引き続き、鼻炎について取りあげます。今回は鼻炎用薬に配合される成分の「抗コリン作用」と「血管収縮成分」について見ていきたいと思います。
添付文書に記載される注意事項は、主に配合成分のはたらきによる副作用などがもとになっています。そのため、その記載がなぜされているのか? どの成分のどんな作用に起因するものなのか? といったことを把握することが、適切な医薬品の使用を推進するために重要です。記載事項を成分のはたらきと関連させて理解しておくことで、危険を回避できるでしょう。

鼻水と抗コリン成分

鼻水は副交感神経から放出されるアセチルコリンの刺激により、鼻腺から分泌されます。「ベラドンナ総アルカロイド」や「ヨウ化イソプロパミド」などの抗コリン成分(副交感神経遮断成分)は、このアセチルコリンが鼻腺の細胞壁に取り付くことをブロックして、鼻水の分泌を抑えるようにはたらきます。この作用を「抗コリン作用」と呼びます。

内服薬の場合、この抗コリン作用は、鼻腺だけでなく全身の分泌腺にも作用するおそれがあるため、以下のような副作用が現れることがあります。
・口の渇き:抗コリン作用による腺分泌の抑制
・排尿障害:抗コリン作用による排尿筋の弛緩
・緑内障の悪化:抗コリン作用による眼圧上昇
・視覚障害:抗コリン作用による毛様体筋の弛緩(目のかすみ、異常なまぶしさ)
・心臓病の悪化:抗コリン作用による心臓の興奮 など

前回取りあげた抗ヒスタミン成分にも、抗コリン作用による同様の副作用がありましたが、より抗コリン作用が強い抗コリン成分では、視覚異常や循環器系への副作用が起こるおそれがあります。

さらに、医療用医薬品では、抗コリン作用により発汗抑制がおこり、体温調節が困難になるおそれがあることから、「高温環境にある患者」が「慎重投与」となっている点にも注意したいものです(一部のOTC医薬品でも同様の注意事項がある)。

鼻づまりと血管収縮成分

アレルギー性鼻炎などによって起こる鼻づまりは、主に鼻粘膜の腫れが原因です。鼻粘膜の腫れは、アレルギー物質やウイルスなどを鼻腔から体内に取り込むことを防ぐための防御反応で、具体的には、鼻腔内の粘膜に多く存在する毛細血管が拡張し、鼻腔内の粘膜が腫れることで、花粉等の通過を抑制しています。
この腫れ(鼻づまり)を解消するために、毛細血管の収縮を促すプソイドエフェドリン塩酸塩などの「血管収縮成分(アドレナリン作動成分)」が使用されます。アドレナリン作動成分とは、交感神経を刺激する成分を指し、
・瞳孔散大
・血圧上昇
・心機能亢進・末梢血管収縮
・気管支拡張・血糖値上昇

などのはたらきがあります。
アドレナリン作動成分は、内服ではかぜ薬、鎮咳去痰薬にも配合され、気管支を広げてせきを鎮める目的でも使われています。

また、上記のはたらきから、
・高血圧の人:血圧の上昇
・糖尿病の人:血糖値の上昇

に注意が必要なほか、プソイドエフェドリンについては、
・前立腺肥大による排尿困難の診断を受けた人:排尿障害
が、注意したい副作用としてあげられます。

なお、プソイドエフェドリンやメチルエフェドリンは、生薬のマオウの成分として知られ、これらの成分を含む医薬品は併用できないほか、依存性のある成分のため、長期連用に注意する必要があります。さらにプソイドエフェドリンは、他のアドレナリン作動成分に比べ、中枢神経系に対する作用が強いために、不眠や神経過敏といった副作用がおこるおそれがあるとされます。

ちょっとした配慮で“薬のセンス”UP!

2回に渡って鼻炎についてみてきましたが、症状の病理と配合成分の作用機序をしっかりと結びつけて理解できると、接客の際も迷わないでしょう。理想をいえば、患者と薬剤師、お互いの“薬のセンス”を向上させることが事故を防ぐとともに、医薬品の使用効果や商品選択の納得性を向上させることにもつながります。

たとえば、薬剤師だけが服薬の指導内容について理由を知っているとします。何も知らない患者に、これこれこうしてくださいと伝えても、「はいはい」と返事をするだけか、ヘタをすると「うるさいな!」と思われるのがオチでしょう。これではいつまで経っても、感謝される薬剤師にはなれません。
今回取りあげた抗コリン作用についていえば、医療用医薬品で記載のある「高温環境にある患者の慎重投与」に関して、OTC医薬品の添付文書に記載はなくても、注意するに越したことはありません。とくに夏場などは「熱中症にも注意したほうがいいですよ」と伝え、 「なぜなら、この薬は鼻水を止めると同時に、汗を出にくくするはたらきもあるので、発汗による体温の調節がうまくできなくなるおそれがあります。ですから、夏の暑い日など、長時間高温の環境にいる時には、普段より注意してください。」と説明を加えることも大切です。
こんな対話をすることで、患者は副作用があることとそのメカニズムを、自分に関係があることがらとして認識できる(薬のセンスが高まる)のです。「自分のために言ってくれている」と思えば、薬剤師の話が聞きたくなり、その指導に感謝の気持ちが芽生えることでしょう。

服薬指導にこのような配慮があってこそ、患者と薬剤師双方の、“薬のセンス”アップが期待できます。最適な医薬品を選択し、安全に使用するためにも、こうした指導のスキルを磨くよう、常に心がけてください。

掲載している情報は、取材時もしくは掲載時のものです。掲載日:2015年03月27日